
僕の家の風呂は大きかった。一度に十人以上はいれる位大きかった。
父が送電線工事の会社をやっていて、そこで働く人たちと一緒の場所で暮らしていたのでお風呂も大きかったのだ。
送電線工事というのは、いわゆる鉄塔をたてるのが仕事です。仕事から帰ってきた人たちと一緒に僕もよくに風呂に入った。濛々と立ち篭める湯気の中に時々奇麗な「絵」が浮かぶ。背中に「絵」を書いている人が何人かいたのだ。鯉だとか女の人だとかの「絵」が湯気の中に浮かぶ姿はなんとも言えず美しかった。
「おじさん、どうして背中に絵があるの?」とある日僕は聞いた。するとそのおじさんは「坊やも大きくなったら出てくるよ」と言った。しかし僕の父の背中には出ていない。そのことを問うと「出てくる人と出てこない人がいるんだよ」とおじさんは答えた。その時、一緒に風呂に入っていた男達が一斉に笑った。僕もつられて笑った。
今のところ僕の背中にはまだそれは出ていない。それにしてもいい笑いだったなぁ、ほんとに。
