ケダモノのすすめ
内なる野性にしたがい日々を生きる男の独り言
自宅出産(2)
「出産は病気じゃないんだから自宅で産みたい」という僕達の願いを実現させるためには、いくつかハードルがあった。
親戚一同には反対された。「万が一のことがあったらどうするんだ」というのがその理由だ。「万が一のこと」が絶対におこらないとは限らない。しかしその可能性を最小限にすることは可能なはずだ。もともと僕達夫婦は整体協会の身体教育研究所で稽古していたのが縁で結婚したのだが、この「稽古」が我々に自信と実際の能力を身につけさせてくれたのと、よい助産婦さんと出会えたことが三人の子供全部自宅出産できたことの大きな背景となった。
1999年の1月7日の午後4時過ぎに「おしるし」が来た。
僕は助産婦さんに電話した。
しかしその時、助産婦さんから帰ってきた言葉は
「多分私は間に合わないから取り上げといてください」
というものだった。
僕を愕然とした。控えめに言って僕はものすごくびっくりした。
「えっ、俺がとりあげるの!!!!」
万が一に備え、心の準備は万端整っていたはずなのに、僕は正直に言ってビビリまくった。
「取り上げるってどうしたらいいんですか?」
「その時になったら自然に分かります」
助産婦さんの落着き払ったその言葉は僕の中でこだました。
「そのときになったらわかる」
そして約4時間後、その言葉に嘘がなかったことを実感することになった。
妻は産まれる1時間前まで普通に動いていた。
「紅茶でも飲もう」とお湯を沸かしている途中に突然、「竜さん、あたしあかんわ」と言ったまま、四つん這いになってしまい、それこそケダモノとしか思えないような低いうなり声をあげ始めた。
不思議なことにその「うなり声」を聞いたとたん、僕の中に激しい変化が起こった。四つん這いになったまま、ただうなり声しか出すことの出来なくなった妻がとてつもなく愛しく感じられ、それまでの不安な気持ちは消え失せ、決然としたものが僕の中に生まれた。
「もう産婆さんは間に合わない、俺がやるしかない」と腹が据わった。
腹が据わったとたん僕は妻の身体をさすったりつまんだり揺すったりし始めた。
何も考えていないのだが、身体が自然に動くのだ。
「なんでこんなことしているのか」と頭のどこかで思っているのだが、身体はおかまいなしに動き続ける。あとで妻に聞いたらそれでずいぶん楽になったらしい。不思議である。
最後は声を出したくなった。最初は「え」の音が出したいのでそうした。すると骨盤の下の方が開いてきた。次に「お」の音を出したくなったのでそうした。今度は骨盤がさらに開いてきた。
するとまさに「ズルズルズルーッ」という感じで賀七子が出てきた。
賀七子は羊膜をかぶったまま、ちょうど彼女のおなかの辺りまで一気に出て来た。僕は彼女を落とさないように手を差し伸べた。
(このときのことは「親の気持ち」で書いてます)
その直後、助産婦さんが到着し、据わったはずの僕の腹腰がもろくも崩れたことを告白しなければならないだろう。
【2008/05/16 23:26】
エッセイ
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