ケダモノのすすめ
内なる野性にしたがい日々を生きる男の独り言

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赤紙

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 僕の母方の祖父は戦死している。「金剛」という戦艦と運命を共にした。彼には妻と4人の子供がいた。

 僕は子供の頃、両親の仕事の都合で、鹿児島の祖母と暮らすことが多かった。だから僕はこの祖母のいる場所を故郷だと思っている。(今は両親もそこで暮らしている。)

 誰にでもあることだが、僕は20代の頃、自分のやるべきことが分からずにもがいていた。「いい暮らし」ばかりに気をとられていたことが原因だったのだが、その当時は全くそれに気付かなかった。

 よりステイタスのある仕事して、よい車に乗り、良い家を建てて、いい女とたくさん寝る。そういったことを一挙に実現させる手立てばかりを空想して、一つも実現しなかった。

 信じられないかも知れないけど、僕は弁護士や公認会計士になろうと真剣に考えたことすらあった。そうすれば良い収入が得られると考えたからだ。そしてそういう生活を手に入れるためには「自分」を変えなければならないと感じ続けていた。それは結婚して子供が生まれるまでくすぶっていた。

 自分がその当時手に入れたいと感じていたもののほとんどは、巧妙な「広告」によって引き起こされた一種の錯角だった。

 僕が必要としていたのはステイタスなどではなく、自分自身に対する信頼性といったようなことだったのだ。何も変える必要はない。自分を証明する必要もない。

 これは僕が欠点のない完璧な人間だという意味ではもちろんない。時々、僕は人々の反面教師となるべく生まれついたのではないかと感じるぐらいなのだ。

 しかし、僕が言う「変える必要のない自分」というのは違うのだ。
 
 多分それは仏教用語で壊れないものを指す時に使う「金剛」という言葉で表現されるものに近いのかも知れない。

 むかしバブルの頃、温泉の中に高級時計をつけたまま入っている人がいた。僕はそういう人を見る度、不思議に思っていた。温泉で時計が傷むんじゃないかと。しかし今は良く分かる。彼は、自分は金があるということを周りの人に始終知らせていないわけにはいかなかったのだ。湯舟に高級車を持ち込むわけにはいかない。それに風呂は当然裸で入る。人は裸になれば金持ちかそうでないかの見当をつけるのは難しい。しかし僕はその人のことを笑えない。

 人の判断に「自分」の価値を委ねる危険性を説いている人は昔から大勢いる。「自分」よがりになる危険性についても同様だ。

 しかし、娘が生まれたことによって僕は自分の「金剛」と遭遇した。理由はわからない。とにかく自分を証明する必要を感じなくなったのだ。

 そして僕は最近、戦死した祖父のことを良く思い出す。それと彼が受け取った「赤紙」のことを。

 僕が自分を証明するために自分自身を変えようと必死だった頃(25,6才の時だったと思う)、僕は鹿児島の祖母を訪ねた。その時、祖母がその赤紙を見せてくれた。召集令状というのが正式の名称らしいのだが、それが赤い紙に書かれていたから赤紙というらしい。しかし祖母の見せてくれた「それ」は赤くなかった。それどころか「それ」は何かの書類の切れ端の裏に書かれていた。終戦の一年程前で戦況は、「老兵」というべき年令の祖父に召集がかかるくらい悪化していた。今ではメモにも使わないような「紙切れ」が一人の人間の生死を左右する程のことを知らせてきたのに僕はショックを受けた。

 祖母の意図は僕にはわからなかった。その時はただ頑張れと言いたいのだろうぐらいにしか思わなかった。しかし今は何となく分かるような気がする。

 僕は40才をいくつか過ぎた年になった。戦死した祖父より長生きしていることになる。祖父は家族を残して逝かねばならなかった。祖父には選択の余地はなかった。そして祖母や僕の母たちにも。そしてそれがまさに祖母が僕に謂わんとしていたことだったのだ。

 「お前は自分自身であること選ぶしか選択の余地はない。自分という赤紙(運命)をうけいれよ」

 父親になり、自然そうなった。全く不思議な現象だ。それにしても他人の作った価値観になんであんなに夢中になり、それを達成するのが自分の望みだと思い込めたのだろうか?いま思えば、どうかしていたとしか思えない。

 さらに不思議なことは「自分という赤紙」を受け入れてから、自分がやらずにいられないと感じることは実現に向けて動き出すということだ。祖父が後押ししてくれているのかも知れない。

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プロフィール

榎田竜路

Author:榎田竜路
Musician、Glocal Media Producer、真荷舟、Earth Voice Project代表社員、NPO横浜アートプロジェクト理事長、NPO映像情報士協会理事長、北京電影学院客員教授、Rainmaker Project代表、身体感覚技法追求。「野生と感性と知性を一つにして地球の未来に貢献します」

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