
僕の妻は喉にものを詰まらせて二度死にかけている。
その二度とも僕が救っている。ちょっと面白い話なので書いてみたいと思う。
(一度目)「鳥の唐揚げをよく噛まずに飲み込んだ」
それはブラジルから来た友人家族が一週間程泊まってから帰った日の夜だった。
そして不思議なことが起こった。
まず僕の妻の状況から。
彼女はかなり疲れていた。何となく余りものの鳥の唐揚げを口に放り込んだ。疲れていたので噛むのが面倒くさくて呑み込んでしまった。すると喉に詰まってしまった。(当然だろ!!)
水を飲んでも、指をつっこんでも何をやってもダメで呼吸が出来ず、パニック状態に陥って2階で寝ていた僕に助けを求めに来たらしい。彼女の話によると僕はその時落ち着きはらって(憎らしい程だったらしい)彼女を正座させ、気合いもろともその背中を叩いたらしい。
見事、のどにつまった鳥の空揚は吐き出され彼女は助かったのだった。僕はといえば彼女が振り返った時にはすでに大の字で寝ていたらしいのだ(すべては翌朝、彼女の告白により判明)。
さて今度は僕の状況。
僕は二階で夢をながら寝ていた。それはかなりリアルな夢だった。二階の寝室に何かが近づいてくる気配が立ちこめ、だんだん部屋が暗くなってくる。
なにか「邪悪」なものが近づいてくる。
そんな感じに身構えていると。突然「ドンドンドン」と大きな音をさせながら階段を上ってくるものがいる。
激しく扉が開くとそこに妻がいた。
しかしその顔は、ショッカーの戦闘員(懐かしい!)のように黒く隈取りされて、一見して何かにとり憑かれたという感じだった。
僕は彼女を向こう向きに座らせて気合いもろとも彼女の背中を叩いた。その時、彼女の口から「悪霊」が飛び出すのが見えた。
「勝った!」
僕は満足感をもってもう一度眠りについた。
翌朝、「いやぁ、変な夢見ちゃってさぁ」と妻に話すと怪訝な顔をされた。
「あんた覚えてないの?」
ということで全てが明るみになったのだった。
不思議なこともあるものだ。
(二度目)「娘と一緒に食事をとっていたところ、大きめの肉(今回は牛肉)を慌てて飲み込んでしまった(娘が急に暴れたらしい)」
その時、運悪くまた喉につまらせた。今回も水を飲んだり、指をつっこんだりしたのだがやはりだめで、2階にいる僕のところに駆け込んできた。
しかし、今回、僕は起きていた。
彼女の様子をみて僕はすぐ事態を飲み込んだ。彼女は口がきけず、一生懸命自分ののどを指差していた。そこで、前回と同じように気合いもろとも彼女の背中を叩いた。
だが、何も起こらない。慌ててもう一度叩いた。だめ。もう一度、もう一度と十数回叩いた(後で見てみると、彼女の背中は無惨にも青アザだらけになっていた)が全くダメ。のどに指を入れてみたのだが届かない。胃の辺りを押し込んでみたがまるで変化がない。救急車を呼ぼうかと思ったが彼女は呼吸困難のため自分では立てなくなってきていた。もう、間に合わない。僕は「引き出し」を使い果たしてしまったのだ。彼女は意識が遠のいていくのか「白目」を剥いて崩れ落ちていこうとしていた。
その時、僕は何故だか彼女のその白目を剥いた顔を見て、「こいつ変な顔してんなぁ」と思ってしまったのだ。
するとその時突然、何かが閃いたと同時に僕は彼女の胸を手刀で思いきり叩いていた。
いったい何が起こったのか自分でもわからない。しかし嘘のように、彼女は詰まっていた肉を飲み込むことが出来た。彼女はまたもや助かったのだ。
「前に上手く行ったから今度も背中を叩けばいいだろう」という感じで対応していたときは全く効果がなかった。喉にものが詰まった場合の対処法はいくつかあるだろうが、思いつく限りを試したけどダメだった。あの時の背筋が凍るような感じは忘れない。
妻が死にかかっているのにどうにも出来ない。
頭の中はグルグル回るだけで、何の答えも出てこない。
救急車も間に合わない。
誰の助けも借りれない。
「引き出し」は全部あけてみた。思考はこういう場合役に立たない。知識は「未知のシチュエーション」には全く無力だ。
もし彼女が気を失いかけて白目(これを言うと妻はいやがるが)を剥かなければ、そしてその時、僕が「変な顔」と思わなければ、「本能」が思考を押しのけて発動することが出来なかっただろう。
自分の身体が意思を伴わずに勝手に行動するというのは体験してみると非常に妙なものだ。まさに「自然現象」という感じだった。
もちろん「思考」というのは重要な能力だと思うけど、「感覚」しか頼りにならない場合もあるはずだ。
三度目のなんとかがないことを祈っている。
